その2


▼新しい創傷治療▼  A

創傷治療の歴史的変遷


 怪我をすると痛いし,血も出る。放っておくと膿が出てきてズキズキと痛くなる。これじゃ困る,ってんで傷口を何かで覆うことを考える。この傷口を覆うものを総称して「ドレッシング」と呼ぶ(・・・もちろん,調味料とはちょっと違う・・・って,オヤジギャグをかましてどうする!)。  ちなみに,本邦におけるドレッシングの歴史は古く,因幡の白兎の皮膚欠損創をガマの穂で覆ったオオクニヌシノミコトが文献的に最も古い治療例とされる・・・らしい・・・多分。

 これまで人類が「傷を覆う」ために使ってきた素材はそれこそ枚挙に暇がない。一番最初はおそらく木の葉・草の葉だったろう。

 紀元前25世紀頃のシュメール文字の陶板には蜂蜜と樹脂を混ぜたもので傷を覆ったと書かれているし,古代エジプトのパピルスには蛙の皮膚と獣脂を染み込ませた包帯についての記述があるらしい。
 医学の祖,ヒポクラテスは「感染していない傷は何かで覆わずに,乾燥させて痂皮を作ることで速く治癒する」と述べている。「傷は乾燥させる」という迷信の元はヒポクラテスだったんだな。

 ローマ時代のケルズス(Celsus,炎症の4徴候を記述した人)は,新鮮外傷はワインなどで洗った後に膏薬を用い,慢性潰瘍には蜂蜜と包帯の治療を提唱。 ガレヌス(Galen)はワインを染み込ませた布で傷を覆うことを提唱するなど,今日の「湿潤環境による創傷治癒促進」を思わせる治療について説明しているが,一方で,傷に塗るものとして豚のフン,沸騰した油(!)などとんでもないことまで記述している。 ちなみに以後1500年間にわたり,こういう治療法が無批判に信じられ,続けられることになる。 まさに暗黒時代である。

 ルネッサンス期のパラケルズス(Paracelcus)は,それまで行われてきた「銃創には沸騰した油を」という「常識」に疑問を提唱。卵白とバラ油とテレピン油で処置することで痛みもなく化膿することもなく治癒することを示した。
 18世紀半ばのVillarsはワックス,テレピン油による軟膏と頻回のドレッシング交換で傷の化膿が防げることを示した。

 19世紀半ば,産婦人科医のゼンメルワイス(Simmelweiss)は,当時,高い死亡率で恐れられた「産褥熱(出産後に高熱がでる状態)」について考察し,医者の手に何かがくっついていて,それが患者に移り,高熱が出て膿が出るのだろうと考え,「赤ん坊を取り上げる前には必ず手を洗うこと」と提唱し,産褥熱の発生が劇的に下げられることを示した。
 しかし,当時の医学界はその成果を賞賛し・・・とはならず,「手を洗うなんて面倒。医者の手に何かがくっついているなんてナンセンス。 あいつは馬鹿じゃないのか?」と冷笑され,無視され,挙句の果てに彼は病院を追われ,最後は発狂して悲惨な末路をたどる。
 もちろん,ゼンメルワイスの考えは全面的に正しく,今日でも「何かする前,何かした後には必ず手洗い」は感染予防の王道とされている。 ゼンメルワイスの不幸は30年ほど早く生まれてしまったことだろう。 彼は「医者の手にくっついている何か」の正体がわからず,それを論理的に説明できなかったのだ。
 彼の考えの正しさは,30年後,ロベルト・コッホとパスツールによって証明されることになる。

 科学的な創感染の予防策を提唱したのはリスター(Lister)で,医学雑誌Lancet(現在でも出版されている一流誌)に「石炭酸に浸したリント布で傷を覆うと傷が化膿しない」と発表。 時に1867年。 同時代のパスツールによる「腐敗と細菌の関係」の発見,コッホによる「病原菌と病気の関係」の発見などが相次いだことから,次第にリスターの説は医学界全体に受け入れられるようになった。
 そしてこの頃から「消毒薬と何かの油類」による材料が次々開発されるようになり(ちなみに当時は「消毒」でなく,防腐法と呼ばれていた),「創傷被覆と乾燥状態の維持」が創傷管理の二大コンセプトとなった。これは20世紀後半まで唯一の方法として信じられることになる。
 それ以後,手術材料やドレッシング材は滅菌処理したものを使うことが普通になり,傷を覆うドレッシング材としてリント布,麻,脱脂綿が用いられるようになった。

 創傷治療という点で,最もエポックメイキングであったリスターの治療法(リスター主義と呼ばれた)を今日的な創傷治療の面から見直すと,その基本理念は「創傷管理=感染予防」だろうと思う。つまり,感染さえ抑えられたら傷は治癒するというものだ。

 当時,ちょっと深い傷は必ず感染していたわけで,そのための敗血症による死亡率も極めて高かったことを考えると,当然の発想だろう。 従ってリスターは,「創面にいる細菌を除去し」「外から入り込む細菌を防ぎ」「創面にいる細菌が増えないように乾燥させる」ことを目的に,上記の治療法を考案した。 彼の示した圧倒的な治療効果は彼の考えを批判する勢力を次第に駆逐し,リスター主義を厳密に行うことが一流の臨床医の証とされるようになった。
 このリスターの方法,すなわち「傷は消毒して乾かさないと治らない」という考えが19世紀後半から一般に普及し,それが21世紀の今日まで続いているわけである。


新たな発想
−湿潤環境での創傷治癒−



 前項で述べたように,リスターの治療法(乾燥ドレッシング −化膿を防ぎつつ,痂皮を作らせて治癒させる−)は劇的に創傷治療を変えたが,更にそれを根本から覆す「湿潤環境(つまり,傷を乾燥させない,ガーゼを当てない)治療」はどのような過程から生まれたかをまとめてみる。
 もっとも速い時期の報告は,1958年のOdlandによる「熱傷は水疱を破らずに,そのままにしておいた方が速く治癒する」というものだった。それまでは「熱傷の水疱は早く取り除き,乾燥させないと治らない」と信じられていたのだから,当時の常識を真っ向から覆す報告だった。

 次いで1962年,Winterが豚の皮膚欠損創に対し,ポリエチレンフィルムで覆った場合と,乾燥させて痂皮を作らせた場合を比較し,前者が後者より遥かに速く治ることを報告。その後,人間でも同じ結果が報告された。ここで「傷は乾かさず,湿潤環境で治癒する」ことが確立された。
 このあたりから,傷が治るとはどういう現象なのか,傷ついた組織はどのように修復されるのか,各種の細胞はどのように連携しあっているのか・・・などについての基礎的報告が相次ぐことになる。

 1970年代初め,Roveeが,湿潤環境で創周囲の皮膚から上皮細胞が移動することで上皮が再生することを証明。
 その後,各種の細胞の役割,各種のサイトカイン,Growth Factorの働きが明らかにされ,基礎的研究からも「湿潤環境を保つために何かで創を閉鎖する」治療法の正しさが証明された。
 これらの知識を元に,創傷治癒に最善の環境を提供する「創傷被覆材」が開発されることになる。

 創傷被覆材としてもっとも速く製品化されたのが,1971年に発売されたポリウレタンのフィルムドレッシング。 その後,親水ポリマーを主成分とするハイドロコロイド・ドレッシングが1983年に発売され(人工肛門用の医療材料としてはそれ以前から使われていた),その後,アルギン酸塩被覆材など多数の創傷被覆材が開発されることになった。

 従来使われてきたガーゼや綿などの旧@被覆材は単に「傷を覆うもの」という消極的な意味しかもっていなかったが,これから述べる創傷被覆材は「傷を覆う」という意味以上に,「傷を速く治す」という積極的な意味を持っているのである。
 それはいわば,攻撃型の治療材料なのである。


創面を覆うものは浸出液のみでよい



 湿潤治療の本質とは何か。 それは「創面を湿潤に保つ」ことである。湿潤に保てるのであれば,その手段は何だっていい。 被覆材を使ってもいいし,ボディラップ,食品包装用ラップでもいい。 ガーゼの表面にオプサイトなどのフィルムを貼付してツルツルにし,それで創を覆ってもよい。 ガーゼの替わりに紙おむつを選んでその表面にフィルムを貼付すれば,浸出液が多い創に非常に有用だ(この方法は鳥谷部先生のサイトで詳しく紹介されている)。 浸出液が多くて創周囲の皮膚にアセモができる場合,台所用の「穴あきポリ袋」がとてもよい。 
 これで創を覆い,その上に紙おむつを当てれば完璧である。

 だから創を密封する必要もない。 創を密封しなければ創面が湿潤に保たれないのであれば密封するし,密封しなくても湿潤に保てるのであれば密封は不要だ。 浸出液が多い創(例:黄色期の褥瘡)であれば,創に直接ガーゼを当てようが紙おむつを当てようが,創面は湿潤に保たれて乾燥する事はない。
 逆に,浸出液が少ない時にガーゼを当てると乾燥するから,その場合はラップや被覆材になる。

 口唇のように被覆材が張れない場合は,口内炎用の軟膏を頻回に塗布させればいいし,あるいは一日中,唇を舐め回してもらってもいい(通常はそれが面倒なので油脂性基剤の軟膏を塗布する)。

 頭皮挫創でも軟膏塗布でよい。この時,塗布の回数を質問するのもナンセンス。 乾かないようにすればいいのだから,一日に3回でも乾燥しなければそれでいいし,6回塗布しても乾いてしまう場合は7回でも8回でも塗布すべきだ。
 要するにそれは,温度と湿度の問題である。 患者さんが自分で決めればいいことであって,医者に決めてもらうことではない。
 このように考えると,創面を直接覆うものは「浸出液のみ」でいいということに気がつくはずだ。 要するに,創面がしっとりと浸出液で覆われていれば,その上に空気があろうと被覆材があろうとラップがあろうと問題にはならない。 だから,創面に被覆材が直接あたっている必要もない。

 陥凹している創面に被覆材を貼付するように工夫する必要もない(例:ハイドロサイトに渦巻きの切れ込みを入れる)し,浸出液が創面を覆っていれば,あとはそれが蒸発しないようになっていればいい。 だから,たとえば術後の創離開で深い陥凹になっていても,それを覆うのは「オプサイトを貼付した紙おむつ」だけでいいし,なにもハイドロゲルなどを詰め込む必要はない。
 「オプサイト貼付紙おむつ」を作るのが面倒だったらポリウレタンフォームをポンと載せて絆創膏固定すればいいし,ラップを張ってもいいだろう。
 同様に,深いポケットに軟膏ガーゼを詰め込むのも不要である。 創面を軟膏で覆うことがそもそも不要だからだ。

 最近,鳥谷部先生がドレッシングを

1. 開放性乾燥型ドレッシング
2. 開放性湿潤型ドレッシング
3. 閉鎖性乾燥型ドレッシング
4. 閉鎖性湿潤型ドレッシング

に分類しているが,これは要するに,閉鎖と湿潤が必ずしも両立しない場合があること,開放であっても湿潤が保てることを指摘したものである。

 たとえば,軟膏塗布をしてオプサイトなどで覆っておくと創面は湿潤になると思われているが,軟膏基剤が吸湿性の高いものの場合(例:カデックス軟膏,アクトシン軟膏,ユーパスタ,ブロメライン軟膏など),浸出液が少なければいくらフィルムで覆っていても,やはり創面は乾燥してしまうと予想される。 つまり,「密封してあるから湿潤療法」でもないし,「開放療法みたいだけど実は湿潤治療」ということもあるのである。

 「創面は医療材料で覆われていなければいけないはずだ」という考えの呪縛はかなり強烈である。 事実私も,この呪縛から完全に逃れたのはここ数年だ。 それまでは被覆材を創面に直接接触させるためにいろいろな工夫をしてきたからだ。 しかし,「創面を覆うものは浸出液のみでよい。医療材料が創面に触れている必要性はない」ことに気がつくと,いろいろな発想が生まれるようになったし,治療材料や治療方法に拘泥することがなくなってきた。

 そしてこのようなことに気づくと,創傷被覆材を創面に貼付していても,実は被覆材は創面に接していないことがわかってくる。
この場合,創面を覆っているのは浸出液であり,被覆材は創面に直接触れているわけではない。 もしも直接触れていたら,それは被覆材が浸出液を完全に吸収していることを意味し,この場合,創面は乾燥していることになり,創治癒は望めないことになる。
 「創面を覆っている被覆材は,創面に直接触れていない。直接触れてている状態だったら,創面は乾燥している」ことに気がつくと,  「褥瘡のラップ療法」の本質が見えてくるし,この治療に対する日本褥瘡学会の反発が全く的外れであり,感情的なものでしかないことが明らかになる。

 「褥瘡のラップ療法」に対する日本褥瘡学会の攻撃を見ていると,彼らは「創面は医療材料で覆われていけないはずだ」という呪縛から逃れていないから,「創面を食品包装用ラップで覆うなんてもってのほか」と攻撃していることが見えてくる。

 ちょっと考えればわかるが,ラップ療法でのラップはあくまでも「創面を浸出液が覆う」のを助けているだけであり,創面に触れているのは浸出液だけである。 ラップは直接触れていない(浸出液が覆っているのだから,ラップが触れる余地はない。これは初歩的理科である)のである。 ラップは単に,乾燥を防いでいるだけの補助的役割でしかない。 だから「ラップを使っているから治療ではない」というのは,単なる勘違いである。
 要するに,ラップであろうと被覆材であろうと台所用の穴あき水切りポリ袋であろうと,治療の本質は同じなのだ。 どれもこれも,「浸出液が創面を覆う」ことを助けているだけであり,それ以上でもそれ以下でもない。
 「創面を覆うものは浸出液だけでよい」ことが理解できれば,「外傷の湿潤治療」「褥創のラップ療法」の本質が見えてくるはずだ。


創を閉鎖して感染は増えないのか?



 皮膚欠損創を創傷被覆材で密封すると,驚異的に速い創治癒が得られることは実例をあげて説明したが,このような「閉鎖療法」を説明すると必ず,「密封することでかえって細菌が増えるのでないか」,「密封すると嫌気性菌が増えるのでないか」という疑問が出る。
 講演会などでも真っ先に出る質問の一つだ。

 だが,これまで,「密封することで感染が増えた」という報告は一つもないのだ。 むしろ,「開放治療と密封治療を比較すると,後者のほうが感染率が低い」という報告しかない。 最近,EBM,つまり「証拠に基づいた医療」の重要性が言われるようになってきたが,まさに「密封することで創は速く治癒し,感染も少ない」というEvidence(証拠)しかないのである。

 閉鎖療法を行っている創面の細菌叢に関する報告は多いが,「ハイドロコロイドで閉鎖した創面の細菌は,表皮ブドウ球菌がほとんど」という報告ばかりで,嫌気性菌が多数検出されたという報告はない。 半透過性フィルムと閉塞性ドレッシングでは,後者のほうがブドウ球菌の増殖が少ない,というデータもある。

 なぜ,創面を密封すると感染が少なく,創治癒が速いのだろうか?
 創を閉鎖することで起こる,創面の変化は次の3つになる。

1. 温度の上昇
2. PHの低化
3. 低酸素化

これらが細菌と,創面の細胞両方に作用することになり,事情はかなり複雑になる。

1. 温度
 好中球などの異物や細菌を貪食する細胞にとって,温度が低化すると貪食機能も低化するとともに細胞分裂も制限され,28℃以下になると著しく障害される。 また創傷治癒において中心的な役割を果たすマクロファージにしても,体温と同じ程度の温度でないと正常に活動できないこともわかっている。  ガーゼで創面を覆った場合,創面の温度は25度程度まで低化するが,ポリウレタンフォームで創面を覆った場合,30℃以上に保たれるというデータがある。 すなわち,被覆材で創を覆うと温度が保たれることになり,創感染抑制に有利になる(勿論,細菌の増殖にとっても温度が高いほうが有利なわけだが・・・)。

2. pHの低下
 ハイドロコロイドなどで創を被覆すると組織のpHが6前後に低化するが(ハイドロコロイドの持つ緩衝作用によりpHが低下する),逆に創を開放にしておくと呼吸性アルカローシスになり,組織のpHは8前後になる。 貪食細胞の活動は低いpHで活性化し,細菌の繁殖を抑えるほうに作用する。 また,pHの低化は創傷面で産生されるアンモニア(組織障害性を持つ)の発生も抑えるため,これも創傷治癒を促進させることになる。 創を開放するのでなく,密封したほうが良いというのはこれらからも明らかだ。

3. 低酸素化
 そして低酸素だがこれはちょっと複雑。 まず,上皮細胞は酸素濃度が高いほうが増殖に有利とされる。 一方,低酸素状態になると血管新性が促進され,組織に供給される細胞は増加することになる。 線維芽細胞を見ると,酸素濃度があまり高いと活動が鈍くなる(酸素中毒)。 白血球の酸素依存性の殺菌効果を発揮するには多くの酸素が必要となる。  つまり,上皮細胞と好中球では酸素濃度が高いほうが有利であり,線維芽細胞や血管新性にとっては酸素濃度が低いほうが有利ということになる。
 だが,閉鎖環境(=低酸素状態)の方が創傷治癒も速いし,創面の細菌数も少なくなるという事実から,低酸素状態が不利に働いていないことがわかる。  これは,上述の温度やPHの低化のすべてが閉鎖環境において成立していることを考えて,低酸素状況がもたらす上皮細胞と好中球の活動低化というデメリットを凌駕しているためと考えられる。 少なくとも,閉鎖療法が提供する湿潤環境が保たれている限り,低酸素状態は創傷治癒にとって好ましいものなのだろう。

 要するに,創面に多少細菌がいたとしても,その細菌の増殖を上回るスピードで創の上皮化が起こってしまえば細菌は自然に排除されるということなのだろう。 閉鎖環境がもたらす低酸素化は好中球による殺菌には不利に働くため,嫌気性菌が増殖しやすくなるように思われるが,実際にそれを裏付けるデータが全くないというのは,閉鎖環境下での創傷治癒が多少の細菌の存在など問題にしないほどのスピードで進行することを意味しているように思われる。


湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)と細胞成長因子の関係



 「傷が治る」というと簡単に聞こえるが,実はかなり複雑な現象が次々起こることで成立している。 例えば,縫合された傷を例に取ると,創面では次のような現象が起こっている(これでもかなり大雑把な説明だが・・・)。

1. 血管が破綻し出血しているため,血小板が集まり止血する。血管は収縮し,止血を助ける。
2. 同時に,血小板より血小板由来成長因子,上皮成長因子が放出される。
3. 収縮していた血管が拡張し毛細血管の透過性が亢進。白血球が組織内に遊走し細菌を殺す。
4. マクロファージが創内に進入し壊死組織などを除去。
5. マクロファージが各種成長因子(血管新生,線維芽細胞活性化,コラーゲン生成などを助ける)を放出。
6. 24〜48時間で上皮細胞が創面を覆う。
7. 線維芽細胞が,コラーゲン,基質などを生成。
8. 毛細血管が増殖

 というように,さまざまな現象が次々起こっている(皮膚欠損創ではこれよりさらに複雑になる)。 これらの現象は一連のものであり,これらが順序よく,整然とと起こることで傷は治るのだ。 これらの現象の統合指揮をしているのが各種の「細胞成長因子」だ。
 成長因子は主に,血小板とマクロファージが産生する蛋白質で,血小板に作用する成長因子,上皮細胞に作用する成長因子,血管新性に作用する成長因子・・・というようにターゲットとなる細胞ごとに成長因子がある。

 ここで面白いのは,低濃度の成長因子はターゲット細胞の遊走に作用し,高濃度の成長因子はその細胞の増殖を促す,ということだ。 これは実に合理的といえる。
 つまり,最初は成長因子は分泌されたばかりで低濃度なので,これがターゲット細胞の引き金を引き,次第に濃度が高くなると遊走先でそれらの細胞が増殖する,というわけだ。実にうまい仕組みである。
 そして考えてみるとわかるが,この「低濃度から高濃度へ」という変化のためには,創が密封されていたほうが有利である。産生される成長因子がどんどん外に流れ出るようでは,いくら待っても「高濃度」にはならず,細胞は遊離するものの増殖への引き金が引かれないことになるからだ。
 要するに,閉鎖された環境でこそ,コラーゲン産生も,上皮化も,血管新生もうまく進むのである。 そして,ターゲットとなる細胞にとっても,体温により近い温度のほうが遊走にも増殖にも有利なことは常識的にもわかるだろうし,この温度保持が創傷被覆材による閉鎖でもたらされることは前述の通りである。


密封していると膿みたいなのが・・・



 創傷被覆材で密封療法をしていると,被覆材の下に「いかにも膿」みたいなのがべっとり溜まったりします。
 色はもろに黄色だし,臭いだってします。
 被覆材の治療に慣れていないと,「これは膿だ! 化膿している! すぐに消毒して抗生剤だ! 密封なんて即刻止めろ!」と大騒ぎになることでしょう。
 実例で言うと,こんな感じです。

1. ハイドロコロイドを貼付した例。眉毛上部の部分が「まるで膿みたい」ですよね。
2. ハイドロジェルをフィルムドレッシングで密封した例。フィルムの中身は黄色でドロドロ,ほとんど膿に見えます。

 もちろんこれは間違いです。膿でも化膿しているわけでもありません。
 例えばハイドロコロイドですが,これは浸出液に触れるとゲル化し,溶けて黄色のドロドロになります。
 なぜこれらが「膿」でないかというと,「感染症状(炎症症状)」がないからです。

 下に,ドレッシングを剥がし,「膿状物質」を濡れたガーゼで拭き取った状態を示します。


3. ハイドロコロイドの下の状態。非常にきれいに治癒していることがわかります。 発赤などの感染症状はありません。
4. 溶けたハイドロジェルを拭き取った状態。 傷はまだ大きいものの,周囲皮膚に発赤は見られません。
  化膿とは無縁の状態ですね。

 「膿みたい」と「膿そのもの」には大きな差があります。
 それなのに被覆材で密封療法をしていると,被覆材の下に溜まっているものは「膿」に非常に似ています。
 しかし,両者の違いはあくまでも「炎症症状」の有無です。
 周囲の皮膚に発赤がなければ,どんなにドロドロしていようとそれは膿ではありません。

 傷の状態をきちんと科学的・医学的に判断すること,それが,新しい創傷治療の基本です。