環境ホルモンを知ろう
人体への影響

 なぜ異常が発生するのでしょうか?
 
その原因と仕組みを追求していたWWFアメリカのシーア・コルボーン博士が、試行錯誤の末、

これら野生生物の異常に関する膨大な量の情報から、

「ホルモンの異常」という仮説を立てたのは、1980年代も終わりのことでした。
 
遺伝子にホルモンが命令を伝えるという作用は、

全ての動物が共通して持っているものです。

カメと人間の遺伝子はもちろん違います。

しかし、この遺伝子に命令を伝えるホルモンそのものは、

カメも人間も同じ物質でできているのだ。

つまり極端な話、ある動物の女性ホルモンは、

違う動物の体内に入っても、女性ホルモンとして作用するということなのです。
 
ならば、有害化学物質によって、生じた野生生物のホルモンかく乱は、

人間にも当然起き得ることなのではないでしょうか。

やがてこの懸念を、立証するかのような事例が

次々と明るみに出ることになりました。

70年代、医療用に開発され、

世界中で多くの妊婦に投与されたホルモン剤などが、

実は恐ろしい影響を胎児に与えることも、明らかにされました。
 
この胎児への影響は、

環境ホルモンが「未来を奪うもの」とする理由として、しばしば挙げられるものです。

では、胎児はどのような影響を受けることになるのでしょうか。


 レイチェル・カーソンが『沈黙の春』で合成化学物質、

特に農薬などの毒性が、生物へ与える悪影響について言及した1950年代には、

まだホルモン異常という影響の細かい仕組みまでは、解明されていませんでした。

しかし、カーソンはこの時すでに、重要な問題を指摘していました。

すなわち、有害な化学物質が、生物の体内に蓄積される、という事実です。
 
人間に限らず、哺乳類が最も成長する期間は、

生まれた後ではなく、生まれる前の胎内にいる時期です。

この時期、胎児は一兆分の一グラム単位という超微量のホルモンの作用で、

オス、メスの相違を決定し、身体の器官を形成していきます。
 
これが、母体に蓄積された有害な化学物質、

つまりは大量の環境ホルモンにさらされたらどうなるでしょうか。

とてもではありませんが、正常な胎児の成長・発育は望めないことになります。

また、母体蓄積された有害化学物質は、

生まれた後も母乳を通じ、

世代を超えて受け継がれていくことになるのです。
 
環境ホルモンとしての作用をもたらす有害な化学物質は、

現在60種類以上にものぼります。

その中には、私たちがよく新聞やテレビで名前を見る、

ダイオキシンやPCBといった化学物質が含まれています。

報道されている通り、これらの化学物質が、

あちこちで、しかも高濃度で検出されているというという事実に対し、

私たちは今、あまりにも危機感が無さ過ぎはしないでしょうか。

全ての命の未来のために

  環境ホルモンは、遺伝子そのものを変異させたりはしません。

つまり、どんなに環境ホルモンが攻めてきても、

先祖代代、進化の中で受け継いできた遺伝子のプログラムは、

決して壊れたりしないのです。
 
ホルモンの状態さえ正常に戻せれば、

生きものたちは健全な遺伝子に従って、健全な心体を取り戻せる。

世代を超えて蓄積されていく化学物質は、

逆に「世代を重ねることでクリーンにできる」(シーア・コルボーン博士の言)ものでもあります。
 
今ある有害化学物質の管理を徹底し、

製造や使用に厳しい規制をかけることで世間への流出を押さえ、

個人レベルでも可能な限りこれらの化学物質を摂取しないようにすることで、

少なからぬ脅威が取り除かれることになるでしょう。

短期的な利権にとらわれず、

情報の公開や化学物質の使用規制を実現していくことが必要です。


  日本では高度経済成長期に、

大規模な公害がいくつも問題となりました。

たくさんの人たちが被害に遭い、今も解決を見ないものもあります。

しかし公害はあくまでも「人間の問題」です。

話題にこそ上らないものの、公害の原因たる有害な化学物質は、

野生の世界にも必ずや影響を及ぼしたに違いありません。

その確かな記録はほとんど残っていませんが、

「沈黙の春」が人知れず日本の山河に訪れ、

今の自然破壊、環境悪化の一因となったことは、十分に考えられます。
 
人間の問題としてのみ環境ホルモンの問題を考えるのならば、

根本的な解決は到底望めません。

そもそもこの環境ホルモンの問題は、野生の世界から発せられた「警告」が発端になりました。

この警告は、ヒトのみならず、全ての生物の未来に対して発せられたものです。

私たち自身のためにも、自然への影響について、

より真剣な調査を行ない、対策を立てていくことは、欠かせないことなのです。