環境ホルモンを知ろう
環境ホルモンについて 〜『奪われし未来』より

 環境ホルモンは、正式な名称を「外因性内分泌攪乱化学物質」といいます。

天然のホルモンは、精巣や卵巣、副腎、甲状腺、脳下垂体といった、

内分泌器官によって作られ、体内の各所に運ばれますが、

環境ホルモンは、外部から身体に取り込まれ、

体内で天然ホルモンに似た作用をもたらし、ホルモンの働きをかき乱します。

しかし、現在の所、何が環境ホルモンで、何が環境ホルモンではないのか、

厳密に判定する国際的な方法や基準は、定まっていません。

このことが、環境ホルモン問題で解決すべき、最優先の課題となっています。

『奪われし未来』の警鐘
 
ダイオキシン、PCB……最近の私たちの暮らしの中にも、

これら有害な化学物質の名前がしばしば登場します。

1996年、アメリカで発刊された一冊の本が、世界中で大きな話題を呼びました。

『奪われし未来』(原題"OUR STOLEN FUTURE")です。
 
この本は、3人の著者によって書かれました。

WWFアメリカの科学顧問であるシーア・コルボーン、ジャーナリストのダイアン・ダマノスキ、

そして動物学の博士号を持ちオルトン・ジョーンズ財団の代表を務めるジョン・ピーターソン・マイヤーズ。

立場の違うこの3人の人物が書き記したのは、

有害な化学物質による影響、

いわゆる「環境ホルモン」の脅威についてでした。

環境ホルモンの脅威

  動物や植物は全て、その細胞の中に「遺伝子(DNA)」というものを持っています。

この遺伝子とは、その生物のからだ作りについての、

いわばプログラム、設計図の役割を果たすものです。
 
もっとも、遺伝子だけで身体が健全に発育し、機能するわけではありません。

この遺伝子に発動命令を出す「伝令役」がいます。

その代表選手が、「ホルモン」と呼ばれる物質です。
 
ホルモンは、生物の生体を構成する、何十兆という細胞の中の遺伝子情報を引き出し、

正しく作用させるという大事な役割を果たします。

身体の健全な成長などを促す、欠かすことの出来ないものなのです。


ところが最近、このホルモンと同じような顔をした「ニセモノ」の登場が問題になり始めていました。

すなわち、「環境ホルモン」です。

このニセモノは、天然ホルモンと似たような力を持った化学物質で、

身体に入り込むと、勝手に遺伝子に命令を出してしまいます。
 
例えば、天然の女性ホルモンと同じような働きを持つ環境ホルモンを、

外部から摂取してしまった場合、ホルモンの作用を受ける遺伝子側は、

女性ホルモンが命令を伝えてきたものと誤解してしまい、

本来と違った身体の作用を引き出してしまうことになるのです。
 
これが「オスのメス化」というような、

不自然な事態や、然るべき時期に、然るべき成長を遂げられない

「発育不全」、あるいは生殖器官などの異常を引き起こしてしまうのです。
 
ホルモンが正しく作用しないと、遺伝子がどんなに正常でもそのプログラムは実行されません。

されないばかりか、間違ったタイミングで命令を、実行してしまうことさえある。

ホルモンの「かく乱」、つまり環境ホルモンの問題が、

遺伝子の異常に引けを取らない恐ろしい影響を引き起こすものであることは、想像がつくでしょう。

環境ホルモンの影響!?

  この環境ホルモン問題を世界的に、知らしめることになったのが、

1996年にアメリカで刊行された、"OUR STOLEN FUTURE"邦題『奪われし未来』でした。
 
この本の冒頭で「前兆」として紹介されているのが、

アメリカの五大湖で確認された魚のガンを始め、

ヨーロッパ、地中海などで1950年代以降確認された、

おびただしい野生生物の大量死、奇形の発生、不妊、行動の異常などの

衝撃的な事例が『前兆』として紹介されています。
 
当時、調査にあたった人たちは、その原因を、

水質の汚染や農薬、化学薬品によるものと直感的に見抜いていたとようですが、

その仕組み、つまり科学的な関連性が立証されるまでには、

少なからぬ時間を要すことになりました。

▼環境ホルモンによる影響の事例 (『奪われし未来』より)

1950年代 アメリカ・フロリダ州 ハクトウワシの個体数の80%に生殖異常が見られる。

1950年代 イギリス カワウソがいなくなる。原因は80年代まで不明。

1960年代 五大湖・オンタリオ湖 セグロカモメのコロニー(集団繁殖地)でヒナの80%が死亡。または奇形が発生。

1970年代 アメリカ・南カリフォルニア セイヨウカモメの生殖異常。メス同志のつがいが確認される。

1980年代 アメリカ・フロリダ州 ワニの卵の80%が死亡。多数のオスの生殖器に異常。

1988年 北海沿岸 1万5千頭にのぼるアザラシが死亡。

1990年 地中海 ウィルスによるスジイルカの大量死。体内からPCBの通常の倍以上検出される。

1992年 デンマーク ヒトの精子が約50年の間に半減。